少し古い話だが
2年ほど前の話だが、EU離脱を決定したイギリスで、「もう一回国民投票を実施してほしい」という署名運動が展開されていたそうだ。この話を聞いた時、おお、民主主義の本家でも、やはりうろたえることがあるのか、と思った。ただし最初は離脱支持派が「敗けるかもしれないので、もう一回できるように…」と国民投票前から、すでに始めていた運動を、投票後に、敗けた残留支持派が乗っ取ったと記事にあったので、少し笑ってしまった。
またドイツでは国民投票という制度そのものが存在しない。伝聞だが、ナチス・ドイツを熱狂的に支持し、彼らが政権を合法的に入手し、また合法的にヒトラーが総統に就任し、その後、世界史に残る恥辱の行為をやってのけ、国は破滅の道を転落した苦い経験から「メディアに乗せられる『直接の民意』はあてにならない。冷静に判断する人=代議士に任せる」と考えたからだという。
民意は儚いものだ
ことほどかように「民意」というのは危うい。つまり「どうせ残留になるのだから、投票に行かなくて良いだろう」と思っていた残留支持派が、慌てた結果とも言える。
もう少し具体的に述べると、イギリスでEU残留を支持している層は、EU加盟で恩恵を受けていた人や、今後の経済的混乱を不安に思っている人。自覚はなくても、今まで安い賃金で働く労働者の犠牲、自国民の貧困層を見捨て、負担をかけて、繁栄を築いてきた。言ってみれば「内国植民地主義者」だったわけだ。もちろん「単に便利だったから」の理由ぐらいで、あまり気にしていないのんきな人も多い。
EUに加盟して、変になったところはイギリスでは何だろうか。またまた小さな例をあげてみる。
以前はロンドンのタクシードライバーと言えば「道を知り尽くしたプロ」で、試験もあって、なかなか許可が下りなかった。でも移民が増え、規制が緩和されて、ある程度道を知っていれば許可が下りるようになり、最近トラブルが多いそうだ。昔日本にも「特攻隊の生き残り」を自称する「神風タクシー」というのがあって、乱暴な運転で客を震えあがらせたが、タクシーに乗って安心できないのでは、困ったことになる。
バランスを取ることを忘れるとおかしくなる
カッコ悪いな、と私なら思う。
ただし、移民の人も生きていかないといけないから、彼らを責める気はない。でもロンドンの住民にしたら「伝統の破壊」「ロンドンの恥」に見えるし、観光資源の一つを失うことになる。特に「大英帝国の誇り」を持っている熟年層なら私と同じように思うだろう。
またイギリス人女性が農場でのアルバイトに応募したら、「移民の人の方が安い賃金で済むから」と断られたという話もある。移民レベルの安い賃金でもいいから、と頼んでも「イギリス人に、移民レベルの賃金を払うのは違法だからダメだ」とも言われた。政治は一体どっちを、誰を、どこを見ているのだろうか?
経済を優先するとこうなる。
私は移民政策を受容するなら、自国民をきちんとどの方面からも保護できるように、同時に自国の伝統を守れる政策をセットで立てなければ、絶対に危ないと考えている。
さて今現在、私個人は、しばらくは茨の道を歩く覚悟で、イギリスはEUを離脱したままで良いと思っている。ウクライナでの戦争のこともある。EUという経済的協力より、NATOという軍事協力組織で貢献すればいいからだ。
1つの視点だけを報道した結果だった
経営陣=企業は「利潤第1」の存在だから、彼らに「国民を守れ」などと要求することは無駄である。それは現在でも同じだ。トヨタや日産の従業員の給料が上がらないから、「トヨタや日産があげていないから」という理由で、他の民間の給料も上がらない。彼らに国民を守る気があるなら、そもそも国外に出て行かないだろう。本当に愛国心教育を受けなければいけないのは、大企業の経営陣だ。子供たちではない。
日本は高度経済成長期に、経済を優先させたために公害という負の結果を生み、国民を苦しめた。その事をもう忘れているのかもしれない。歴史や公民を曲がりなりにも勉強している、小学生や中学生でも知っていることだが、知っていても教訓を生かすこととは別物らしい。ましてや今度は、国全体の経済対策がテーマだ。間違うと、その被害は兆単位のことになる。その意味では、地方だけに被害がとどまった公害の方が、まだ危険性は低かった。ただし被害に遭った人々のことを軽んじているわけではないことは、お断りしておく。
マスメディアは多方面から事実を伝えなければならない
そして「民意」を決定するのは、やはりマスメディアであり、現状の問題点を伝えるのもやはりマスメディアだ。
なんでこんな何の関係もなさそうな、脈絡のつながりそうもない話を上げたのだろうか?
それは昨日起きた事件が原因だ。今回の事件の背景を暴くことができるのか? 視聴率1%で100万人が見るテレビを中心としたマスメディアの働きは重要だ。
ちなみに、ドイツでは、第2次世界大戦後、それまでの既存の新聞社はすべて連合軍に解体されてしまった。もちろん暴挙には違いがない。しかしナチス礼賛という罪の方が大きかったから責任を取らせるべきだ、と判断したのだろう。しかし日本では。確固たる国力を示す資料的根拠もないまま、いたずらに戦争を煽り、自主規制の名の下、アメリカとの反戦・非戦を主張する記事は全く取り上げなかった新聞社はそのまま生き残り、現在に至る。その新聞社を母体として、今のテレビ局が生まれたのだ。
彼らにできるのだろうか? そして参議院選挙で我が国の「民意」はどちらを、向くのだろう?
私は注目している。
しかし狙撃対象の後ろに回り、発砲したあの犯人姿が、映画「タクシードライバー」のラストシーンとオーバーラップしてしまったことは、忘れられないだろう。
安倍元首相のご冥福をお祈りいたします。