山の口伝はとても面白い

前回の続きになるが、気に入った「山の口伝」をもう少し紹介する。

「熊を殺すと雨が降る」
これは前回に紹介したが、もう少し補足したい。
どう読んでも不吉な表現で2通りに受け取れる。1つは山の神である熊を殺して、本当に山が泣いている、かもの意味だ。でもこれは逆もある、と説明した。熊が殺されるような日は、雨が降りかかっている日だ、と。

野生の動物は雨に濡れるのを極端に嫌がる(らしい)。体の匂いが消えるし、鼻も水分のせいできかなくなるからだ。犬は真水には飛び込むが、シャンプーを嫌がるのも同じ原理だし、猫が風呂から上がった飼い主に体をこすりつけるのも、「私の匂いが消えている!」からだそうだ。飼い主は猫の「持ち物」となる。で、雨が降りそうだと、慌てて近道をする傾向があり、人間に出くわして、撃たれて死ぬ。これを「銭洗い弁天」みたいなものと述べたのは、銭を洗うと儲かる、の逆で、洗うと銭が儲かるものがある、つまり砂金とか砂鉄とかが採れるの意味だ。

「山で猿が騒ぐと明日は雨」
これはサルが多い地方ではよく聞く口伝で、まずはずれないらしい。箕面の猿もそうかも。猿は雨が来る前に用事を済ませておきたいから、ぎゃあぎゃあと仲間を呼ぶ。用事はつまり食事だ。エサを早く食え、とか、幼い猿には、かみくだいたものを食べさせるのだそうな。食いだめが猿の得意技だそうで、見習いたいものだ。

「野兎を昼間に見ると雨になる」
野兎は夜行性で、普段は眺めの良い山の斜面に巣穴を作っている。だが雨を予感すると雨のあたらない岩場に移動するからだ。山の斜面だと閉じ込められる恐れが出てくる。

「木の葉の白い裏が見えるような風が吹くと雨だ」
下から風が吹くと木の葉が裏返る。山の渓谷を強い乱気流や、上昇気流=低気圧が近い証拠だそうで、雨が降る。急いで避難するべし。もっとも谷底から吹いてくる冷たい風は例外だそうだ。

「弁当箱の上蓋の裏に露がたくさんついていたら雨になる」
山の仕事は朝に始めて、10時頃に1回食事をするので、弁当箱を開けることになる。都会でも10時ごろに植木職人さんたちが休憩している風景を見るはずだ。その時にご飯の水分以上に露が付いていたら、空気中の水蒸気量が多い⇒雨の可能性が高い、を意味する。こうなると山で働く人は午前中で仕事を片付けて、お昼過ぎにはもう下山を始める。昼の弁当は安全な所まで帰ってきた時に食べるらしい。満腹だと歩きにくいからだ。

一番大切なのはこれだ

「山で迷ったら、下るな、尾根をめざせ、上にあがれ」
これは覚えておくべき。絶対に気を付けるべし。最近「山ガール」が多いし、自然に触れ合おう、で子供も良く山に入るから。

人は山で迷うと「麓にいけば人家がある」という認知バイアスにかかる。そこで慌てて下ると、自然の作った溝にはまり、そのまま谷底まで落ちるかもしれない。また下に行けば行くほど、木が生い茂り、道がわからなくなり、余計に迷う。迷い始めたら、悪循環の始まりで、終いには体力が尽きて、死ぬ可能性が高くなる。

同じ体力を使うなら、とにかく上に登る。「麓」はたくさんあるが、「頂上」は一つしかないし、木も減ってくる=見通しが良くなる。現代なら、ヘリコプターで捜索してくれるから、見つけやすくなるというわけ。ただし登ると気温が下がるし、風当たりも厳しくなるから、まさに体力勝負だ。「サバイバル」でもこういうシーンがあった。

こういうことを学校でも教えたら自然に興味を持ち、保全活動に勤しむようになるだろう。そのうちに「海の口伝」も手に入れようと思う。