なぜ「オレ流 狭義の意味でのクロージング」に気を使うか

「後がない」からだ。ここで少し想い出話をする。年寄りの想い出話は長くなるが気長にお付き合い願いたい。こちらも注意して要点だけ述べる。

まだ私が駆け出しのころは、生徒に対して説得力がなかった(今は少しはあるつもりです)。特に「なんとかなるさ」のノリでやっている人には、何を言っても無駄なところがあった。ある年、ある私立高校を公立と併願つまりダブル受験する人がやたら大量になった年があった。

この時私は悪い予感がした。私立高校は経営が優先だから、単願=専願者を優先して合格させるので、併願者はけっこう落ちる。落ちても余裕のある人は公立には通れるから問題はないが、ギリギリの人や、今でいうメンタルの弱い人は公立も落ちることになる。負の連鎖だ。

でもこの「落ちる」という現象が自分の身の周りでいつも起きるか??というとあまりないはずだ。特に高校入試では、中学校の方で幾重にも安全策を取り、場合によっては権力的に「土俵に上げない=受けさせない」ということまでする。だから担当教師の進路指導に従えば、まず間違いは起きない。これは前にも述べた。そして「起きない」ので「想像ができない」→「用意ができない」→「油断する」という「図式」が完成する。

そのような時「不測の事態、想定外の出来事」はいつでもどこでも起きる。それが怖いのだ。たいていの原因はヒューマン・ファクターだ。

どんな人が危ないか

色々な場合があるだろうが、特に、
① ホントの一人っ子の長男さんとか長女さん、あるいは上下の兄弟姉妹とすごく年が離れている「事実上の一人っ子」
② 上の子だが、下がすごく年が離れていて、親が下に取り掛かりになっていたり、親が忙しいので、下の子のケアラーになっていて、下が懐いているのは良いことだが、勉強の邪魔になっている。
「お前、いつも子連れだな」と揶揄われている毛利蘭君みたいなものだが、そもそもあれは「カップル」で、コナン君は「体は子供だが頭脳は大人」の工藤君だから問題はない。
③ 親せきの人たちに受験経験がないとか、受験がものすごく順調に行ってしまって、苦しんだ経験のない人たちに囲まれている
④ 同時に本人には実力も自覚もない、勉強について「動作不安定」な場合

もちろんこれに当てはまったら100%というわけではないので、勘違いはしないで欲しい。しかし危険は危険だ、という認識はしておかなければならない。そしてどれか一つでもヤバいが、複数重なっているとか、①+②+③+④の「役満」状態の場合は「マジにヤバイ」のである。

その時、まさにそれにあてはまる併願希望のD君がいた

彼はとにかく遊ぼうという意識と、変に自分は誰々よりはできる、と低い人を基準に考えているタイプで、やばいな~と私は感じていた。だから事あるごとに「そんなのでは危険だ、もっと対策研究をして、1点でも多く取らなければ」と忠告ないし脅していた。

しかし家庭の雰囲気も甘く、連絡をしてこのままでは危ないと報告したのだが、下の子がちょうど手間がかかる年齢であったこともあり「あの子に任せてますから」だけだった。

受験まであと3か月となった11月の最終週、その家から、退塾したいとの申し出があった。自分はちゃんとやっているのにあまりにも私がうるさいから、と言う理由だった。

がっかりしたが、ホッともした

まだ若かった私は、がっかりするのと同時に、安心したことを正直に告白しよう。落ちてしまってしょげているその姿を見るのは嫌だったし、責任を問われるのも嫌だった。同時にそれから解放された、という安堵感もないまぜにあった。つまり私はこの時点で、その生徒D君(やめてしまったから正確には 元生徒であるが)の失敗を確信したのだ。どう見てもそっちの確率が高かった。もちろん合格してしまえば私の杞憂ということになり、めでたいことだ。

D君と学校で同級生だったE君が塾に残っていたが、その人は冒険をしたくなかったので、私の勧めに素直に従い、専願コースを選んでくれたから、私はそちらは心配していなかった。

まだ続く。