マクシミリアンは絶望の中にいた
あれだけ「私を信じなさい」と言った伯爵のことが信じられなくなったからだ。無残にもヴァランティーヌは死んでしまったではないか。ヴァランティーヌが殺害された日の午後にシャンゼリゼの館を訪問しても、忠実な家令ベルツッチオは、伯爵は別の用事で忙しいので、しばらくは誰も館内にお入れしないように、と伯爵から命令されている、としか返答しない。
何日か経って、葬儀も済んでしまい、そのヴァランティーヌの墓の前から動かないマクシミリアンだった。伯爵は必ずヴァランティーヌを救うと約束したではないか、とマクシミリアンは責める
しかし伯爵はこう言う。
「死んだ人はお墓にはいないのです。地面の下に眠っているのではないのです。彼らは私たちの心の中に葬られているのです。これは、いつでも彼らに会えるように神様がそう仕組んでくれているのです」
なんだかどこかで聞いたようなセリフだな、と思ったら、数年前に流行した歌の内容と似ている。逆か、と考えた。偉人はとっくの昔に見抜いていただけだ。このような考えは宗教を問わない、普遍的なものらしい。こういうところが古典はすごいな~と感心する。
ヴァランティーヌが死んでしまったと思い、絶望して、自殺を図ろうとしたマクシミリアンを説得し、パリからマルセイユに連れ出した。その時に、アルベールの出征姿を見て、伯爵=エドモン・ダンテスはメルセデスと面会してもいる。
ヴァランティーヌは生きていた
あまりにも絶望しているマクシミリアンを見て、本当にヴァランティーヌを愛しているのだな、と確信した伯爵は、マクシミリアンを自分の富の源泉を生んだモンテ・クリスト島に招く。以前は何もなかった島に今や港ができて、立派な御殿が建っている。船に乗ってやってきたマクシミリアンをその中の秘密の部屋に引き入れ、これを飲めば苦しむことなく死ねると、薬をあげる。マクシミリアンはそれを飲んでしばらく眠っていたが、目を覚ますとそばにヴァランティーヌがいた。
驚いてわけを聞くと、実は、伯爵は特殊な薬物で、ヴァランティーヌを仮死状態にして、医者にまで死亡したと誤認させた。その上、ブゾーニ神父に化けて、葬儀も完全に仕切り、誰もいない時を見計らって、仮死状態の彼女を棺から取り出し、体重分の石を詰め込んで、埋葬させている。
あの時は、まだ毒殺者=ビルフォール夫人エロイーズがこの世にいるので、伯爵は安心はできないと判断していた。しかし伯爵の策によって、ビルフォールに犯罪を見抜かれ、夫人は息子を道ずれに自殺して、この世から消え、ビルフォールも精神が狂い破滅し、ヴァランティーヌの安全がようやく確保されたというわけだった。
ヴァランティーヌの生存そのものを、マクシミリアンにも秘匿していたのは、「敵を騙すには味方から」のセオリー通りだった。しかし少し皮肉でもある。墓の前で泣いていたマクシミリアンを見て、どう思っていたのだろうか。伯爵は、その墓が無人であることを知っていたからだ。ある意味マクシミリアンをからかっているともとれる。もちろん伯爵にはそんな気はないが、いじわるにとるとそうなる。
伯爵からの手紙が残されていて、そこでヴァランティーヌは自分と祖父以外は死に絶え、父は発狂したことを知る。彼女がビルフォール家の家財を受け継ぎ、発狂した父親を入院させ、おそらくその菩提を弔うことになるだろう、と告げる。
伯爵の船が、沖合を去っていくのを2人は見ながら、一番有名なセリフ
「待て、而して希望せよ」でこの小説は終わる。
説明もおそらく次で終わる。