最後の仕上げに伯爵は取り掛かる

やり手の銀行家ダングラールは、株で連続の大損はする、娘の婚約者は犯罪者だった、娘は逃げ出してしまう、でここのところ不運続きであったが、必ず盛り返して見せると意気込みだけは衰えていなかった。もしこの不運が普通の不運なら、幸運が次にやって来るはずだが、何しろ自分の蒔いた種を回収しているだけだから、そう簡単に終わるものではない。ましてや本人が気が付かないだけで、人為的要素の相当強い「仕組まれた不運」だから、まだまだこれからがクライマックスとは思いもよらない。

その不運を仕組んだ張本人である伯爵が、ふらりと現れて、ある取引のために急にお金が必要になったが、現金が手元にない、そこでお宅に預けているお金のことを思い出したから引き出したい、ちょうど700万フラン必要だからこちらにも都合が良い、さらに鷹揚にも、こちらの都合で引き出すのだから、利子は要らないという。

ダングラールには堪ったものではなかった。今700万フラン引き出されたら、彼の所持金は400万フランしか残らない。しかしやせ我慢をして笑顔で700万フランの小切手を切って伯爵に渡した。帰り際に伯爵は少し不思議な笑みを浮かべたが、素知らぬ顔で帰って行った。

脂汗を流しているそこへ、別の債権者が預けていた寄付金100万フランをおろしに来たのである。彼はそのことをすっかり忘れていたのだが、必死の演技で、今伯爵が大金を持っていったので、さすがに親銀行も1日に2度大金をおろすことを許してはくれないと嘘を言い、明日の朝なら大丈夫だ、と言って債権者を帰らせた。もう彼には夜逃げするしか方法はなかった。

逃亡先で山賊どもに拉致監禁されるダングラール

彼は逃亡先をイタリアのローマにした。そこにはまだ少し金が残っている銀行口座があったからだ。現代のようにオンラインでつながってはいないので、夜逃げしても二三日から一週間の余裕はあったのである。しかしこれは虎の口に自分から飛び込んでいくようなものだった。つまりルイジ・バンパの縄張りのことだ。

案の定、ローマの銀行で少し金を都合できたダングラールは、そこで乗り換えた馬車ごと、山賊どもに身柄を拘束された。御者もぐるだったのである。彼らの巣に連れていかれ、アルベールが捕らえられていた牢に放り込まれてしまった。しかし山賊たちは彼の懐から財布を取っていかなかったので、少し安心して眠ったのである。

でも牢に入っていて、何もせずにじっとしていても空腹にはなる。ダングラールは食事を要求したのだが、鶏1羽が10万フランだと言う。ダングラールがそんな金はない、と反論すると懐に小切手をお持ちだ、それを切って下されば、部下が金を引き出しに行く、というのだ。

空腹には勝てず、10万フランの小切手を渡したダングラールは、貧相な鶏料理にありついた。今度はのどが渇いてきたので水をくれと言うと、ローマ近辺は日照りなので、ワイン1本が1万フラン、瓶詰の水も同額だという。

このままいけばあっと言う間に400万フランを使い切ってしまう、と金の亡者のダングラールは恐怖におびえ、なるべく節約しよう、食べないでおこうと決心したが、その牢は山賊どもの食堂が見える位置にあるので、彼らが食事をしている音や匂いには勝てないようになっていた。彼らの方が1枚も2枚も上だった。

まだ続く。