鋭いアンテナを持つ生徒はどんなことを考えるか

初回からここまで「~しなければならない」と「意識低い系」の生徒に対する「命令文」を書いていので、大変恐縮している。そこで今回は、趣向を変えて、私が出会ったなかで「意識高い系」の生徒が何を考えていたかを紹介する。こういう人たちと出会うのも楽しみの一つだ。季節は違うが、よく夏休みに「人権作文」という、ちょっと鬱陶しい課題がよくでる。その時の話だ。

ある生徒が「戦争と人権」で作文を書かないといけないが、なかなか進まないので困っている、とぼやいていた。そんなの適当でいいでしょ、と流していたが、ふと思いついて、SFやファンタジーの世界では「混沌とした群雄割拠」があって、それを統一する英雄が現れ、彼に(あるいは彼女)に多くの異能な戦士たちが従い、共に統一戦争を戦う、という設定が一番面白く、読者を確保する。だからこの世から戦争をなくすために、私が世界統一戦争に勝ち抜いて、1つの国にしてやる、私に従え! と書いたら面白いかも、とアドバイスしたら、「そんなの、担任の先生に怒られるか、書き直しになるに決まっている」と返された。

民主主義の世の中だ、表現の自由は保障されているから、別にいいんじゃないですか、と言ったら「生徒には表現の自由が制限されているんです」といきなり没になった。元々が冗談なので、そうかもね~じゃあ、それこそ適当に書いとけばと、案を引っ込めると、そうします、戦争反対って書いておきますね、そうしておけば先生は安心するんです、との返事だった。

いい大人が、中学生に手玉に取られているな、と思ったが、先生の方も折込み済みなんだろう、と思うと、まさに無駄な宿題だ。彼女は利発な生徒なので(女子生徒だった)、適当に「作文」してうまくまとめるだろう。

文科系の推薦のためだった

後になって、もしかすると「人権作文全国大会出場」の機会を逃したかも、と真面目に考えた。現実のこの世界で「統一戦争」をやるとなると、資金はともかく「そんなの無理~」とか「世界はバラバラなのが面白い」であまり起きないし、起きたら起きたで、反対勢力・抵抗勢力が起きて、たいてい失敗する。

その理由を中学生なりに書いたら面白かったかもしれない、キチンと協力するべきだったな、少し後悔した。特にその女子生徒はひざに負担をかけると良くない体調の持ち主で、運動系の部活には所属せず、「試合」とか「大会」を経験したことがない。希望の高校にはいつも全国大会に出場する「放送部」を持つ伊丹市の高校を薦めるつもりだったからでもある。

あるいは、例えばこれまたSFの世界だが「世界連邦政府」樹立のためには、「エネルギーと食糧と水」をめぐる戦争を解決するため、一日でも早く、恒久的なエネルギー問題解決をはかる提言までするとか、などでもいいな、と考えた。

その後、彼女は無難な作文を提出して事なきを得たのだが、なんだか気になってしまったらしく、あれから考えていたようで、この前、その話を蒸し返してきたから、私なりの考えを述べておいた。

もちろん相手はまだまだ子供だし、読書量も少ないから、理解はしにくかったかもしれないし、そもそも初老の爺さんと、10代前半の少女との「議論」だから、時にかみ合わないが、でもまじめに、自分なりに考えよう、という姿勢は大変好感が持てて、こういう人が多くなれば、私の予想する最悪の未来も回避できるかも、と思った。

そもそも国が大変革するのは、今までの歴史では、やはり「暴力」によるものが多い。仮に選挙で政権交代となっても、不満を持つ者たちが、「反乱軍」になって敵対し、抗争の上、どちらも滅びて、漁夫の利を得る第3勢力ができるとか、国内の不満をなくすために、他国との戦争を遂行したために、結果「無謀な戦争」となって、当時の政権が倒れて、新政府ができる、という図式も多い。その時に新財閥が勃興し、旧財閥が没落、そして経済的な新体制がウラにできて、政権をささえるのだ。何をするにも金が仇の世の中だ。

とここまで話したところで時間が来たので、「戦後の財閥」について調べておくように、と「宿題」を出したら「絶対調べる」と約束してその女子生徒は帰宅した。

以後続く。