アルベールは陸軍に入り母と別れ、アフリカに向かう

アフリカに出征する船に乗るために、アルベールはマルセイユにいた。アルベールは陸軍に志願し、そこでの出世を目指すことにする。そしてモルセールの姓を捨て、母方の姓を名乗ると宣言する。もし異国で戦死したらそれまでの運命だったと思うことと母に言い、母は息子には言わなかったが、息子が戦死したことを知った日に死ぬつもりだった。

ベルツッチオが渡した伯爵からの手紙には、いくらでもお金を渡すことができますが、あなたは受け取らないでしょう、ですから、私がまだただの船乗りのエドモン・ダンテスであった時に貯めたお金が、マルセイユの父の家の庭に埋めてあるから、それを受け取っていだだきたい、そして父の家だったものも受け取っていただきたい、とあった。

メルセデスは港で、彼を見送った後、エドモン・ダンテスの父の残した家に戻った。もちろん今まで暮らしたモルセールの館を比較に出すことが憚れるような、貧相な家だ。彼女が本当に気の毒なのは、夫フェルナンことモルセールが自殺してしまった結果に「息子を助けたい一心で、夫を死なせてしまった」と後悔し続けているところだ。

母としては正しかったが、妻としては失敗だったとメルセデスは苦悩する

若い時はこのシーンを読んでも「仕方ないんじゃないの」と突き放していたが「愛と愛情は、愛情に情けがあるところが違う」という言葉をおっさんになって知ってから、少し違った受け取り方をするようになった。

つまり母としては最善のことをしたのだが、妻として、一家の主婦としてはやはり結果的には最悪のことになってしまった。フェルナンは男としては卑劣極まる人間だったが、家庭内で、夫としては良い夫だったことが、メルセデスの言からもわかる。

彼女は、約20年前のビルフォールによるダンテスの不当逮捕・拘束・投獄のあと、帰ってこない彼を絶望の淵で待っていたが、そこは女の悲しいところで(こういう言い方をすると最近は責められるが)、エドモンの恋仇であるフェルナンの怒涛の寄り切りで、彼と結婚してしまった。フェルナン・モンテゴという男は、その後も裏切りと卑怯を処世術として生きてきたような人物である。その「悪臭」をメルセデスは感じなかったみたいだ。よほど隠すのがうまかったのかな~と感心してしまう。密告したうちの一人はフェルナンだから、読者からすれば「そんな結婚ヤメロー!」と話の中に入り込んで止めたくなる展開だが、文豪はメルセデスを不幸に陥れたいので筆は止まらない。

そしてアルベールという大変良い息子をもうけた。彼女にとってはこの息子だけが頼りだ。

また冤罪事件以前に、エドモン・ダンテスは不当逮捕の上、裁判も受けられることもなく、現在で言うなら「予備監獄」に入れられたままの状態だった。面会もできないし、そもそも彼がどこにいるかもわからない状態では、ただ待つ身で、そんなに人生経験もない当時15才(!)のメルセデスを責めるのは無理がある。

自責するメルセデスの決意

この小説の時代「弱きもの、汝の名は女なり」だった。もし映画化するなら、その点をどう説明するかが少し問題だろう。

結婚を受諾したのはやはり自分だった、その夫を守りきれなかったのは自分のミスだったと自責する彼女のもとに伯爵=エドモン・ダンテスが現れる。彼女を伯爵は「あなたは自由な意志で正しいことを行動したのです」と慰めるが

「神様が私に自由な意志をくださったとするなら、もう私は絶望から逃れることはできません=大変つらいのですが、仮に神様がお許しなさっても、それでも私は自分の意志で、自分を責めることを敢えて選択します」
と言い、なぐさめには感謝するが、自分を責めることを止めはしない。深すぎて浅薄な私などにはついて行けそうもない。

まだ続く。