「ジャニナ通信」が政界を揺るがす

新聞社に奇妙な文書が届き始めた。それは「ジャニナ通信」と業界で名づけられ、滅んでしまったジャニナ公国の暗闇の部分を暴いていくものだった。そしてついにジャニナ公国が滅んだ原因は、当時のフランスから派遣され、ジャニナ公国の守備隊を指揮していたフェルナン・モンテゴ将軍の裏切りによるものであること、そしてその真相を知っているのは、現モルセール伯爵であり、彼が実はフェルナン・モンテゴであると、告発することで締めくくられていた。

モルセール伯爵ことフェルナン・モンテゴは上院議員でもあったため、国会で弁明を許されるにいたった。彼は2日かけて、当時のことを書き示した書類を国会に提出し、自分がジャニナ公国の守備に至ったときにはすでに公国の首都城は陥落寸前で、どうしようもなかったこと、支配者だったアリ・パシャの妻と娘のことは任されていたが、混乱が激しく捜索したが、行方不明になっていたことなどを説明し、ほぼそれは国会に受け入れかかっていたその時、係の者より、査問委員の議長に、ジャニナ公国の重要秘密を知っているという人物が議事堂のすぐ外に控えている、との報告がされた。

査問委員会にエデが現れる

議長は不公平にならないように、その人物を委員会に招き入れるように命じた。入ってきた人物は妙齢のトルコ風の顔つきをしていた、中近東出身とすぐわかる女性だったことが皆を驚かせ、同時にモルセール伯爵は雷に打たれたように硬直し、青ざめてしまった。

その女性はじぶんがジャニナ公国の支配者アリ・パシャの娘であることを示す、パシャの手形と幼児の手形の押された出生証明書を提出した。アルジェリア語が読める議員がそれは真正のものであることを保証し、おそらく手形もこの女性と一致しそうだと判断した。そして同時に彼女は自分が奴隷として売られたことを示す売渡契約書と、その奴隷商人から適正な価格で、モンテ・クリスト伯が彼女を買ったことを示す別の売渡契約書も提出した。そしてそれらも真正のものであることが確認された。

「つまりあなたは、アリ・パシャの娘という王族の身分でありながら、ジャニナ陥落後に、奴隷として売られたというわけですね」
「その通りです。議長閣下。幸い私と母を買った奴隷商人は、身分をはばかって別の公国の王に私たちを売り、私たちは割合に静かな生活を送ることができました。そして母はこの前、亡くなりました。モンテ・クリスト伯が私を買ってくださって、私は自由の身になりました。問題は、私を奴隷として売った人物の名がその契約書に書いてあることです」
そこには確かにフェルナン・モンテゴの署名と彼の拇印が押されてあった。
「その時あなたはまだ3才か4才のはずですが、その人物が誰であるか覚えていますか。そしてその人物はここにいますか?」
「います。そこに」
そう言って、彼女はモルセール伯爵を真正面から見つめた。モルセール伯爵ことフェルナン・モンテゴは震える声で反論をしようとした。
「いや、これは何かの陰謀…」
「陰謀ですって! その額の傷をつけた顔で私の父、アリ・パシャを裏切り、城に敵兵を導き入れたのを私は忘れるものですか!そしてその薄汚い手の甲にある傷跡を忘れるものですか! お前はその薄汚い手でサインをして、私と母を奴隷として売り、その薄汚い手で金を受け取ったのです。それを忘れるわけがない!」

雷のような声で詰問されたモルセール伯爵ことフェルナン・モンテゴは、ふらふらと立ち上がった。
「さあ、伯爵、あなたには弁明の権利があるのです。それを行使なさいますか?」
「いえ、そのご婦人の言うことは…すべて本当です」
そう言い、フェルナン・モンテゴは議事堂から去っていった…。

アルベールはショックを受ける

モンテ・クリスト伯がとの小旅行を中断してパリに帰ってきたアルベールは、一部始終をその場にもぐりこんでいた新聞記者のボーシャンから聞いた。彼は絶望して、頭を抱えていた。自分が信じていた「勇猛な父」は裏切者だったのだ。今やモルセール家の名誉は地に落ちた。

「そしてその女性がエデなんだね」
「そう、あのエデだ」
「伯爵は彼女が父を仇とすることを知っていて…」
「おい、変なことを考えるなよ、アルベール。ここはパリだ。1年、いやもっとすぐに皆、こんなことは忘れてしまうさ。そうだ、君は少し遠いところに行くんだ。そうすれば大丈夫だよ」
しかしアルベールには、もうボーシャンの言うことは耳に入っていなかったのである。

まだ続く。