継母が犯人とわかった衝撃

エロイーズが部屋から出て行って、十分時間がたったのを見計らい、伯爵は壁の内側から音もなく出てきて、ショックを受けているヴァランティーヌにそっと話しかける。
「…はっきりと見ましたね」
「ええ、でも、信じられません、継母様が私を殺そうとするなんて…」
「あなたには全く覚えがないのですね。でもあなたはお金持ちだ。十分、継母様には動機があるわけです」
「でもそれは祖母様や伯母様が私に残してくれたもので、継母様には関係ありません」
「そう、その通りです。あなたの成人の日まであと少し、そうなればあなたは自分の財産を自由にできるのです。しかし御父上はともかく、血のつながった弟さんは、あなたに『何か』あった時の相続者の一人になります」

それでも弟をかばう姉・ヴァランティーヌ

「まさか、エドワールのために継母様はやっているとおっしゃるのですか…ああ、神様、弟には罪はありません!」
「…あなたは全く心正しい方だ…」
「でもなぜ父は、継母様の気持ちに全く気が付いていないのでしょうか?あの父には、あり得ないことです」
「そう、まさにそこです。本来なら、私ではなく、御父上がこの役割を果たさねばならないのです…。ですが今はもうその話はやめましょう。とにかく助かる道を行かなければならないのです」
「わかりました。私は朝になったら、父にも何も言わず、この家を出ます」
「そうおっしゃると思いました。でも殺人者はあきらめません。この手の殺人者は蛇よりも執念深いのです。あなたが泉から飲む水にも、あなたが木からもぎ取る果実にも、殺人者自ら、あるいはその意思を受けた者が、毒を盛るのです。つまり、あなたが死ぬか、殺人者が死ぬかのどちらかしか解決方法はないのです」
「では私はどうしたら…」
「私の言うとおりにこの薬を飲むのです。そうすれば、あなたは殺人者から永遠に逃れることができます」
伯爵は緑色の薬玉を取り出した。
「そして目覚めた時に、そこが光のない部屋であっても、身動きが取れないベッドの上であっても、あるいは最悪、棺桶のなかであっても、あなたを娘のように思っている私と、あなたを心から愛しているマクシミリアンと、そして神様が、あなたを守ってくれている、と心静かに信じて、待つのです」

カッコよすぎる…。

ヴァランティーヌは死んでしまうのか?

躊躇っていたヴァランティーヌだったが、最後には伯爵とマクシミリアンを信じて、薬を服用する。ヴァランティーヌはすぐに眠りに落ち、そして次第に彼女の寝息は途切れ、とうとう音もしなくなり、唇はひび割れ、顔は青ざめていく。それはどこから見ても死人だった。

数時間後、朝になって、メイドがヴァランティーヌの部屋に入って来て、彼女が死んでいることを発見して大騒ぎになる。エロイーズはしてやったりと、心の中で舌を出したかどうかはわからない。「また死人が出た!この家は呪われている!」と叫んで、荷物も持たないまま「死の家」から逃走する召使もいた。

連絡を受けたビルフォール家の主治医がすぐにやって来て、ヴァランティーヌの様子を検分した。そして彼が窓辺に目をやると、水が半分入ったグラスが置いてある。その中身を確認すると、致死性の毒薬であることがわかった。これまでビルフォール家とその周辺で、3度も不審死が発見されていたが、証拠のようなものが出たのは初めてだった。彼は興奮し、ドアのところにいたビルフォールに、もう間違いはない、この家の中に殺人者はいる、と捜査に踏み切ることを助言した。

まだ続く。