ビルフォールは悪者どころではない

ファリア司祭は当時のビルフォールの年齢を聞き「ふむ、腐敗はしていないが、野心はあるな」とも見抜く。物語中盤になってビルフォールは検事総長になってエドモン・ダンテスの前に現れるから、予想は当たっていたことになる。

原作からはその子が死産と誤認されたのか、それとも無事に生まれたのかは少し不明だが、とにかく生まれたばかりのわが子を庭に埋めると言う、非人間的な行動を取る「冷血漢」の印をビルフォールに押すあたりは、文豪だな、と思う。しかし野心のために生まれたばかりの我が子を殺すという行動に出ることが、私なんかには理解できない。彼ほどの財力と人脈があるのなら、里子に出すとか、いくらでも方法があるはずだ。

自分の犯した犯行現場に連れてこられて、動揺している家令を見て、その原因を知っている伯爵ことエドモン・ダンテスは、
「さて宗教上の恐怖によって自白させたものか、それとも肉体上の苦痛によってさせたものか」と考える。しかしこの後、ベルツッチオは割合すらすらと、自分の事情や事件の概要を話しだした。つまりは告解である。

また前のブログ記事で、伯爵はすべてを知っているが、知らないふりをしていると推測を述べた。その根拠はベルツッチオが埋められていた赤ん坊の性別を告げない前に「その男の子はどうしているのか」と質問してしまっているからだ。なんとかうまくごまかしたけど。

変な所が人の良いベルツッチオは、それに気が付かず、ビルフォールを糾弾する。
「あの男、一点非の打ちどころがないようなあの男は、人非人なのですよ」
「冗談だろう、それ。その証拠はあるのか」
「あったと申し上げた方がよろしいです」
「じゃあ、なくしたのだな」
「はい。でもよく探しましたら見つかりますでしょう」
「なるほど(ではお前は、その男児を探し出すんだぞ)」

伯爵はベルツッチオを慰める

そして告白の終わったベルツッチオに伯爵は
「お前の責められるべき点はたった一つだ(ビルフォールを刺したことでもなく、育て方を失敗してその男児が不良少年になったこともでなく)。その男の子を生きかえらせた後、なぜその母親に返してやらなかったということだよ」
と静かに言った。
「そう、私は卑怯でした。つまりは嫌疑を受け、投獄されることが怖くて、その母親を探すことをやらなかったのです。私は男らしい人間ではなかった」
「そうか、私はただ四方が壁に囲まれた土地を買っただけだと思っていたが、そんな由来があったのか。ここは亡霊の巣食っている場所なのか。しかし私は亡霊と言うのが好きなのだ」

そして後悔と罪の意識で震えているベルツッチオに伯爵は優しく声をかける。
「ベルツッチオ、よく覚えておけ。
『およそすべての患いに対処する方法は2つだ。曰く時。曰く沈黙』。
もし死ぬ時に、犯した罪が怖くなったら私を呼べ。お前の魂が快く眠れるような言葉を見つけてやる。さあお前はもう寝るが良い」

いや一生に一回だけでいいから、こんなセリフ言ってみたいです。

まだ続く。