もう1人の魅力的な伯爵の同居人がエデという中近東の美人さん
彼女が伯爵と同居していることはアルベールもボーシャンも知っているし、2人は彼女と話をしたこともある。しかし彼女は出生や氏素性にかなりの秘密を抱えている女性で、それがわかるのは後半だ。ある意味「最終兵器」的な存在でもある。伯爵とは親子ほども歳が離れているが、彼女は伯爵を愛していることを超えていて「伯爵の奴隷」と自分を見なしているし、伯爵が死ねと命じたら、それだけでためらいなく死ぬぐらい伯爵を信じている。
昼食会の終わった午後に、シャンゼリゼの新居を正式に買い取る契約を不動産担当者と締結した伯爵は、さっそく馬車を走らせて新館へ向かうのだが、彼についてきたベルツッチオの様子がおかしい。というより不動産担当者と話をしていた時に、新館の住所がオートイユであることを聞いた瞬間から、おかしくなった。
ベルツッチオが刑務所で面会した「プゾーニ神父」は、実は伯爵の変装した姿
伯爵は、ベルツッチオの背景を色々調べ上げた上に、面会室でさらに詳しいことを聞き出していたのだ。曰く、ベルツッチオの兄はビルフォールの違法捜査のために死んでしまったこと、その仇を討つためにベルツッチオはビルフォールを付け回していたこと、そしてシャンゼリゼのオートイユの屋敷に住んでいる女は、ビルフォールの秘密の愛人だったこと、そして女に会いに来ていたビルフォールをその裏庭で刺したこと、しかし刺される前にビルフォールが「何か」を庭に埋めたこと、ビルフォールが死んだと思った後、埋めたものを掘り返すと、箱の中に、布にくるまれた生まれたばかりの男児が入っていたこと、仮死状態だったので見様見真似の蘇生術を施すと生きかえったことなどを、全て伯爵は知っていた。
以上のように、別の密輸の罪で刑務所に入っていたベルツッチオの保証人になり、彼が釈放されると同時に家令として雇った、というのは原作からはわかる。ベルツッチオの方は、伯爵とブゾーニ司祭が別人だと思っているから、伯爵が自分のことを何もかも知っているということを、実は知らない。
そこで、ベルツッチオに自分から白状させるための舞台装置として、彼の絡む事件のあったこの館を買ったのではないか?と考えてしまうのだが、原作からはわからない。しかし、そうとしか考えられない言動があちこちにある。
「殺害現場」にベルツッチオを連れて行く
そして、夜になってからベルツッチオを連れてビルフォールが男児を埋めた問題の庭をわざと散策し、ベルツッチオが耐えきれなくなって伯爵に自分の罪を告白する、というシーンは中々含蓄に富んだ言葉が飛び交う。
「ああ、旦那さま、伯爵さま、まさにそこ、そこで私はビルフォールを刺殺したのです!」
「え、ここでか?」
「ええ、そこで私は、あいつの背中を、持っていた短刀で刺したのでございます!私は人殺しなのです!」
しかし伯爵は彼の忠実な家令に、ビルフォールは生きている、生きているだけでなく、検事総長として大出世していると教えた。
「あの男、ビルフォールは生きているのですか!」
「ぐさっとやったところが、きっと、少しずれていたんだ。お前ね、ああいう司法関係者と言うのはしぶといのだよ」
なんとまあ皮肉のきいたセリフであるが、まさにその通りで、検察・警察関係者というのは、犯罪者よりしぶとい、というのは、現代にも当てはまる事実だ。「鬼退治をするには、その鬼より強い鬼をあてがう」のが基本だから当然と言えば当然かもしれない。
ちょっと紹介するつもりだけだったのに、10回も使っている。まあもう少しお付き合い願いましょう。