この小説は中盤であっちに行き、こっちに行きする

しかしそこは大作家デュマ、一直線には進まない。だから読むほうも腰を据えてかからないといけない。またそれが魅力でもある。さて、エドモン・ダンテスがイフ城砦から脱獄しておよそ15年、逮捕・投獄された時から約20年経った時点の、イタリアのローマから話は再開する。

フランスの青年貴族 アルベール・モルセール子爵は、友人のボーシャンとローマで開催される謝肉祭見物に来ていたが、手違いでホテルに宿泊できなくなる。屈託のない子爵アルベールは野宿でも構わないと言うが、友人の尽力もあって、「モンテ・クリスト伯」なる人物と同じホテルに宿泊できることになった。伯爵はアルベールが泊まる予定だった部屋を、もっと先から予約していたのだった。いわゆるダブルブッキングである。

ホテル側の手違いでもあり、さらにアルベールたちの窮状を聞き及んだこともあって「フランス・パリから、はるばるイタリアの謝肉祭をせっかく見に来たのに、それは気の毒だから」と言い、ベッドや部屋は余っているからと、同室ながらいっしょに宿泊しようと持ち掛けたのだ。おまけに謝肉祭を一番の特等席で見るはからいまで伯爵はしてくれた(上等のホテルだと、部屋の中にまだ複数の部屋がある)。そして伯爵とアルベールは親交を深める。

この時点で、「モンテ・クリスト伯」なる人物が、エドモン・ダンテスであることは、もう読者は知っている。エドモン・ダンテスが、ファリア司祭から受け継いだ財宝が隠されていた島の名前が「モンテ・クリスト島」だったからだ。

さらに読者は「謝肉祭」とはなんだろうと疑問に思わなければならない。多くの中学生の国語指導をしていて気になるのが、自分がわからない単語が出てきても、それを調べようともしない生徒が多数だということだ。

「謝肉祭はその名の通り『肉に感謝する祭』で、『カーニバル』とも呼び、カトリック・キリスト教圏で行われる祝祭のこと。断食と苦行が義務となる四旬節の前に肉を食べて、遊び楽しむことを目的とし,仮面をつけるパレードなども付随する」と答えておけば満点だ。

発展(?)して、肉は肉でも男性と女性が乱痴気騒ぎで交わることも含む、まで書いたら裏の満点かもしれない(中高生は書いてはいけません)。

爵位とは何か

ところで「子爵」とか「伯爵」とは何だろうか? 貴族が登場する話には絶対出て来る単語だが、正確には知らなかったので、高校生の時に調べてみた。今は Google とかがあるからもっと便利だ。簡単にまとめると、
公爵(Dukeデユーク)、侯爵(Marquesマーキス)、伯爵(Ealrアール)、子爵Viscount(ビスカウント)、男爵(Baronバロン)の順番に「偉く」て、公爵は王家の血流からの人が多いらしい。たいていは王家から「あんたはエライ」ということで「叙勲」を受けて、不祥事でも起こさない限り世襲になる。

しかし漫画の主人公にありがちな「名称」だ。デューク東郷ならゴルゴ13のことだし、ナイトバロンなら「名探偵コナン」の推理小説家・工藤優作の小説中の主人公の名前だし、髭男爵ならお笑い芸人だ。

左を制する者は世界を制す
リバウンドを制する者は試合を制す
情報を制する者は世界を制す

多くの政治家や経営者は、いかに情報を収集、管理、活用するかで勝負が決まると言う。
原作にはないが、私はアルベールが宿泊できなかったことも、友人と伯爵が「偶然」に出会ったのも、すべて伯爵=エドモン・ダンテスが仕組んだことではないかと疑っている。彼ほどの財力がある人物なら、情報を取得するのは、実に簡単なことだからだ。そしてモンテ・クリスト伯=エドモン・ダンテスは、徐々に網を絞っていく。

そしてこの謝肉祭にはとんでもない「出し物」が付いていた。

まだ続く。