最近は「知能犯」が増えている

前回に続き「我々の生きている世界は、案外危険な世界」だをテーマに、割合有名な統計を紹介する。実は結構出回っている数字で、接したことのある人も多いと思うが、改めてあげておく。よく見れば面白いことがわかる統計だ。

「戦前・戦後の少年犯罪」「少年犯罪刑法犯検挙人数」の表より

「殺人」「放火」「強盗」という重い強行犯は確かに減少傾向にあるが、比較的軽い「傷害」と、知能犯の「横領」は1950年から2005年で10倍という、まさに「けた外れ」で増えている。子供の数自体は減っていることを考慮に入れると、すごい数字だ。

横領罪は成立するのが難しい「ずるい」犯罪だ。これはつまり戦後50年~70年間に「ずるい」若者が増えてしまったという、残念なことを意味し、同時に、由々しき事態と呼ばなければならない。数字に出ていないだけで、本当はもっといっぱい、もしかすると実数は100倍ぐらいになっているかもしれない、と思うとぞっとする。

悪くなっても、ずるくなってはいけない

ちなみに私は「乱暴」だとか「荒っぽい」ことはもちろん悪いが、「ずるい」ことは、もっと悪く、特に若者がずるくなるのは、将来的に、成長する過程で良くないことだと、色々な面から考えている。

もちろんいつまでも馬鹿正直で、幼いのも困る。あくまで成長に応じて、知恵を正しく使う方法を学びながら、賢くなること、「ずるい」と「賢い」を見抜けるようになって欲しい。「ずる賢く」はならないようにする。それが一番良いことで、めざす基準ではないか。

ネットも進歩して誰でも扱えるようになった。それはプライバシーを簡単に侵害することと、プライバシーを「人質」に取ることが簡単になったことを意味する。「ずるい」者にかかったら、例えば冗談でそそのかされて、冗談だと思って万引きしたとする。でも万引きしているところを撮影されて、それを投稿するぞ、と脅されたら普通の子供ではビビッてしまって、その後は言うがままになるだろう。

本当は脅すこと自体が犯罪で、公序良俗に反してすべて無効だ、むしろお前が訴えられるぞ、などと反論できる子供はあまりいない。しかしそういう時代に今の子供たちは生きている。

いったん「ずるさ」を覚えるとギャンブルより悪質で病的になる。精神に浸み込んで、精神を構成する要素になる。骨の髄から、とも言う。最近よくある(あって欲しくはないが)、仲間の中学生を死に追い込む、同年代の者は、そういう精神の持ち主である可能性を否定できない。おそらくその者も、家庭内や別のグループ内では被害者だったと思われ、今は加害者になってしまったのだ。

そして年少の知能犯の増加は、成年の知能犯の増加を意味する。物理的な暴力ではなく、知能による脅威が増えた世界に、子供たちは生きていかなければならない。「亀の甲より、年の功(=劫とも書く)」と言う。親は何歳になっても、子供を見守り、知恵袋になる覚悟も必要になる、本当にそんな時代になってしまった。

愛染明王が憤怒の形相なのは、炎に包まれる我が子を救うために火の中に飛び込む親の表情をかたどったものだから、と聞いた。できるかどうかはわからないけど、心構えだけは持っていたい。