どちらも本の名前だが
自分が読んだ本の内容を羅列しただけのタイトル名で、特に意味はない。
「アメリカの飢餓」は、1991年発表で、アマゾンでは古本だから1円で売っている(送料が250円)。貧乏根性が身についている私としては、なんだか得をしたみたいで、古~い本を喜んで読んでいると嬉しい。送料が本体の250倍もするが、300円前後で大阪や神戸に行けても、そこに目的の本があるとは限らないし、帰ってくるのにまた300円前後いる。それに人ごみは元々嫌いだし、今は時節柄さらにごめんこうむる。だから、なんだか得したような気もする。
20年も前の本だが、今の段階でも飢餓に悩んでいる人は1500万人とか、2000万人とかいるらしい。とんでもない数字だ。戦争をやっている場合ではない。こういう話を聞くと、どこが「自由と平等の国」「アメリカン・ドリーム」なのか、さっぱりわからない。
そう思っていたら、今度は近年の日本のニュースで「6人に1人の子供が貧困家庭で、お腹を空かしている」という記事を読んだ。「土日は給食がないから、お腹が空いてしかたがない」「長期休暇になると早く学校が始まらないか、と苦しい」こんな話を見たり聞いたりすると、息が詰まりそうだ。同じ国の中で起きているにしても、違いすぎる。
そして続けて思い出したのが、桐野夏生の「優しい大人」
この本、舞台は近未来の日本、というところが怖い。経済が破綻、福祉システム崩壊、老若男女のホームレスが絶望的に増え、困窮した人々は一日を生きるのに必死で、食べ物・寝床を奪い合い、東京の各地はスラム街と化し、大人は自分以外を守れなくなり、育てられずに野に放り出される子どもが増大した。
主人公のイオンは渋谷で野宿生活を送る孤独な少年だ。身寄りがなく=誰が親かわからないので、児童保護センター=児センに保護されていたが、まるで刑務所のような劣悪な環境になって、逃げ出す子どもが増え、イオンもその一人だった。
おとなは三種類だ、という教え
「おとなは三種類だ。優しいか、優しくないか、どっちつかずか。優しいおとなは滅多にいない。優しくないおとなからは、すぐ逃げろ。でも、一番僕たちを苦しめるのは、どっちつかずのやつらだ。しかも、そいつらは数が多い。絶対に信用するな。ともかく、おとなを見極めろ。それしか僕たちの生きる道はない」
この言葉は児センに保護される前に暮らしていた別の施設で出会った「兄弟分」の「鉄・銅」という双子の兄弟から教えられたものだ。児センを逃げ出してからは一日たりとも誰にも簡単に心を開かず、「優しいおとな」を見極めようとしていた。このエピソードで「施設のたらい回し」とか「子供は親からつけてもらった名前がない」などのキツイ情報を得られる。
東京をさまようホームレスは集団になる。ストリートチルドレンの集団、女性ホームレス集団「マムズ」、闇の世界で生きるアンダーグラウンドな組織「夜行部隊」など。アンダーグラウンドとは文字通り、地下に住む人たちを指す。今の日本には幸いにもまだないが、ルーマニアとかに行けば、下水道に住んでいる若者がいる。日本がこうなってしまっては大変なことになる。
地下に住む住民になる
イオンはそのどれにも属さず、一日数百円のロッカーの見張り番の仕事で食いつなぎ、ただひとりで生き延びていたが、ある日「ストリートチルドレンを助ける会」というNGO団体に所属するモガミという男に声をかけられる。イオンはもちろん簡単に心を開かないが、なぜかモガミはイオンを気にかけ、事あるごとにイオンの様子を見に来るようになる…。
とまあ、こんな感じで始まり、イオンが最終的にはアンダーグラウンドの住民になり、そこでトラブルに巻き込まれて瀕死の重傷を負い、少し経って死ぬまでに、彼を見舞いに来る人たちによって地上での経過が分かり、最後彼は死ぬ、という終わり方をする。
新聞に連載されていて読んでいる時は、「なんとも救いのない話だな」とあまり興味がなかったが、数年経ったときに本屋さんで文庫本を見つけ購入、初めて最初から最後まで通読した時に、「いやこればなかなかのものだわ」と再評価した自分を覚えている。
感想は色々だろうけど
どちらの本も、ぜひ一度読まれてはいかがでしょうか?もちろん人によって感想は違うだろう。特に「やさしい大人」では、いわゆる「まとも」でない育ち方をした子供が、大人になっていく時に、やはりどこか「おかしい」人間になっていく、しかしそれをなんとか矯正あるいは更生、あるいは修正しようと自分から藻掻く姿を小説内に見ると、人間は確かに本能が壊れているのだが、壊れながらも動かそうとする心に少し感動する。そこがこの小説の「ミソ」ではないかと。