ドイツ軍の歴戦の将軍でもお手上げになる
「勝手が違う」敵に初めてドイツ軍はぶつかったのだ。そしてソ連・ロシア軍にとっては「祖国防衛戦争」であり、負ければ国が滅亡するのだから、決死の覚悟で向かってくる。
ドイツ軍の主たる将軍は日記に「倒しても倒しても、蟻のごとくソ連兵は湧いてくる。確かに彼らは新兵で未熟だけれども、その数は無視できないぐらいに多い。もはや我が軍の勝利は神のみぞ知る運命になった」と記していることが本書に紹介されている。無限の回復力を持つ軍隊の恐怖は、それを体験した者でないとわからないだろう。
スターリンは軍事は軍人に任せ、政治に集中して、他国と協力する方針を採る
で、無限に湧いてくる大多数の兵士たちの奮戦と、ロシア特有の地形を味方にした戦車部隊の運用や、ロケット・大砲部隊の活躍など、有能な将軍の戦闘指揮によって初期の修羅場を何とか凌いだスターリンは、軍の方針には口出しをすることをやめて、戦争の進め方については軍部の意見を尊重し、裁可するだけにして、クレムリン(アメリカで言うならホワイトハウス)の執務室で、全ソ連の政治や、行政執務を遂行することに専念した、と本書は紹介している。
そして冬を迎え反撃の準備を整え、同時に政治家としては、アメリカやイギリスに外交の手を伸ばしている。もちろん1939年のノモンハン事件以来、敵対関係にある日本に対しても、ゾルゲなどの諜報部員を駆使して動向を探るのも忘れてはいない。「後ろを突かれてはやっかい」だからだ。
ちなみに「ロシア特有の地形を味方にして戦車部隊の運用」を駆使した「有能な将軍」とは、ノモンハン事件で日本軍に大打撃を与えた将軍と同一人物だ。彼は日本軍を相手に「近代化した機動力のある戦車集団の運用とソ連だけができる『味方の人命を無視した突撃作戦』」を実験した人だった。
ノモンハン事件で活躍した軍人・ジューコフを最高幹部に登用する
彼の作戦能力をスターリンは高評価して、今度はドイツ軍との戦闘を任せた。名前はジューコフという。顔写真を見ても「図太そうなオッサン」だ。農民赤軍に身を投じ、一兵卒からの叩き上げで元帥にまで昇進し「救国の英雄」になる。
スターリンという政治家には批判の声がすごく強いが、ここが彼の凄味であることは素直に認めなくてはいけない。事実ここの急場を乗り越えた彼は、1950年まで全ソ連の権力を把握したまま天寿を全うし、ヒトラーは1945年に首都ベルリンを攻略され敗れて自殺するのだから(ただし別人説あり。次回で紹介するかも)。
一方、フランス、ギリシア、ポーランドなどに通用した戦法である「無敵の最初の一撃」を凌がれて焦ったヒトラーは「モスクワ攻略」に作戦を切り替え、全兵力を向かわせることにしたが、もはやうまくいくわけではなく、あちこちで一進一退を繰り返すことに我慢ができなくなり、指揮官を無理やり交替させたり、左遷したり、作戦に口出ししたりして、余計に混乱を招くことになった、と本書にあった。これが「そうだろうなと思った1つのこと」だ。
調子の良い時は、指導者が黙っていても、極端な話、寝ていてもなんとでもなる。
もちろん、できる限り、逆境に陥らないようにするべきなのは事実だが、人生には浮き沈みがあるのは前提であり、真価が問われるのは、調子が悪くなったとき、逆境に陥った時だ。
中学生でも高校生でも、いや小学生を含む受験生全般でも良い。指導者・指揮官は自分自身だ、という自覚を持つことから始まる。誰でも調子の良い時は、何をやってもうまく行く。だがその時に、その間にこそ、自分の苦手な、あるいは全く手を付けたことがない分野に探りを入れて、自分の手法やレベルが対等に通用するものかどうかを確かめる≒情報を手に入れておかなければいけない。
もし全然肌が合わないな、と感じたり思った時は、こちらから肌を合わせる必要がある。特に理系だと、高校2年で勉強する「数列」は「今まで出会ったことのないわけのわからん数学の世界」だ。ある塾生のセリフを借りれば「正解の形がわからない、変な分野」だ。でも案外小学生が解く中学入試問題にヒントがあったりするし、毎日見ているうちに、公式に慣れてくるはずだ。
高校英語でも否定構文と比較構文の融合分野は難しいが、パターンを覚えることで突破孔が開く。
そして開戦する時期=未知の学習分野に突入する時に余裕を持って向かわなければいけない。でなければドイツ軍やヒトラーのように自滅することになるであろう。
まだ続く。