A君はY君に質問をしてきた

後少しで受験、という冬のある日、A君はY君に、お前はM高校に進んだことに満足していたか、と妙に真剣にたずねてきた。Y君は、自分が中学の時、平均以下で、やっと平均以上になって、なんとか公立高校に行けた、学費が安いから、その分予備校にも通えている、だから満足と言えば満足だ、友達もいい奴ばかりだしと答えた。
A君はその時、そうか、とだけ答えた。

変な奴だな~と思っていると、それを横で聞いていたBさんが後日になって、実はA君とBさんには、もう1人C君という、これまた小・中学校からの友達がいたこと、いつも3人いっしょだったこと、でもC君は緑台高校を受験したがうまく行かず、M高校になってしまったこと、なんだかそれからC君はすねてしまって、学校も違うし、生活時間帯も変化して、次第に疎遠になってしまったことなどが、友達だと思っていたA君にはつらかったみたいだったことなどを教えてくれた。

3人でひとまとめだったのに

3年になって、M高校生の制服を着たY君が予備校に現れたとき、A君はどきっとした。残念ながら、C君ではなかった。A君はさりげなく観察しているうちに、彼から見ると、あまり難しくもない問題にうんうん取り組んでいるY君を見てさらに興味を持ったらしい。猫が変なものを食べているのに、人が興味を持ったのと同じかもしれない。

ある日自分から話しかけてみる、とBさんに告げたので、Bさんも私も付き合うよ、となり、自習室を出たところで呼び止めたというわけだった。つまり最初の横柄な態度はオレに八つ当たりみたいなものか、とY君は思ったが、別に腹も立たなかったというところがY君の面目躍如であり、Y君らしいところだ。

これでY君がひねくれた奴なら、話は簡単だったかもしれないが(?)、なにしろ生来ののんびり者が、屈託のない表情で、お茶でも出すよ、と家に招かれて、A君は恐らくペースを崩されたと同時にホッとしたのではないか、と推測する。

人は群れでいるから強くなれる

私などはいつでもエラソーに生徒には
「自分が弱いことを自覚しなければいけない。今存在するところで努力することが大切」
とのたまわっている。

「普通の人は弱くて小さな存在だから、群れを作って行動するのが、当然で安全。またそれが属性でもある。そうやって人間は氷河期を乗り切って、生き残った。だからたまにいる、頭抜けた存在を押さえつけるのは良くない。その人が何か新しく、ためになるものを見つけてくれることで、人類はまた先に進む」
とも言っている。

A君のように頭脳レベルが高く、しっかりしていて一人でも大丈夫な「孤独タイプ」でも、やはり理解者が欲しいのは人情だ。オスカルにアンドレ、ホームズにワトソン、ラインハルトにキルヒアイスは「鉄板」だ。

中学まではC君がそれを務めていたのであろう。むしろBさんは、A君よりC君の方が好きだったのではないか。だが、C君が去ってしまうと、一人になってしまったA君を放っておけずに、予備校まで付いてきたのであろう。あるいは「家が近い」ということから、両家族が手を回したのかもしれない。

話を聞いていると、Bさんの能力と気質なら、自分一人で勉強していても、十分大丈夫な感じが、Y君から伺えたからだ。

まだ続く。