呼び止めたのは男子高校生と女子高校生の2人組
制服から2人とも緑台高校の生徒だとわかった。この近辺ではトップの高校で、上位者は、京大・阪大・神戸大などの国立大に行くのが「使命」みたいな高校でもある。
おい、いつもこの時間になると出ていくが、どこに行くんだ、と男子の方から話しかけられ、いや家に帰って飯を食おうと思って、と言うと、家に帰って飯を食う? 許せんな、と返された。
なんだこいつ、上から目線で上から口調だな~と思っていると、すぐ隣に座っていた女子生徒が、家が近いの?とこっちは柔らかい口調で尋ねてきたから、うん、ここから歩いて5分だけど、と返事をすると、ますます許せんな、と男子の方が返してきた。
えらく絡んでくるな~と思ったが、Y君は根が親切なお人好しだから、お茶ぐらい出すよ、いっしょに来る?と返した。
お邪魔しよう、と男子が言い、おもしろそ~と女子も同行することになった。
なんなんだこれは、とY君が考える行き道で、2人ともにT中学出身だとかあたりさわりのないことを話すのは主に女子の方で、男子の方が先に声をかけてきたのに、あまりしゃべらなかったのがY君には不思議だった。
ぼんやりしているが案外鋭いY君はショート・ストップだった
Y君は少年野球時代に、コーチから「相手の心理を読むこと」を一番に叩き込まれていたし、お父さんからも「行動の端々に心理が見える」と教わっていたから、違和感を覚えたと言っていた。
守備も内野担当で主にショート・ストップだったから余計にその傾向が強かった。ショートは実際にデフェンスの要でもある。のんびり者のくせに、こういうところは鋭いのだ。高校球児になっていたら良い戦力になったかもしれないのに、あの監督さんは勧誘に失敗したのである。もしかしたら、私と同じように考える中学生が、たくさんいたかもしれない。
男子生徒は、オレに何か含むところがあるのかもしれないが、身に覚えがないし、そういえばこの2人は自習室ではオレの両隣か、そうでない時はいつも近くにいたな、と今更ながら気が付いたところはお人好しで、油断のY君だ。包囲されていた=マークされていたのに、気がつかないとは彼らしいと、私はそれを聞いて笑ってしまった。諜報部員ならあっさり暗殺だ。そもそものんき者のY君は諜報部員にはなれないし、スカウトもこないだろう。
3人は仲良くなる
家に着くといつも通りY君の祖母がいてくれて、3人を迎えてくれた。
私も何度か話したことがあるが、世間を良く知る人で、孫のY君の良き理解者だ。約束通りお茶をもらいながら2人は自己紹介をして、聞きだし上手のおばあさんにかかるとイチコロで、男子生徒の方は阪大の工学部、女子生徒は神戸大の国際科(だったと思う。よくは覚えていない。なにしろ会ったことがないので)を狙っていることや、2人は家が近くて、高校もいっしょになったことを教えてくれた。新米刑事さんはおばあさんのテクニックを見習うべきである。
ひぇ~オレとレベルが全然違う、とY君は思ったらしいが、オレはオレだ、できることをやるだけだ、と思い直し、改めて2人を尊敬することにした。 こういう単純なところがY君たる所以だ。
できの悪い孫だけどよろしくお願いします、とおばあさんに頼まれた2人は「わかりました」と勝手に引き受けたのを見て、Y君はオレは猫か犬か、と思ったらしいが、報告を受けた私は、似たようなレベルだから仕方がないな、と思った。
それから3人は予備校でつるむようになって、学校が休みでも時間を決めて自習室に現れ、お弁当などを持ってくるようになった2人はY君の家でお茶をもらいながら食べて、Y君のおばあさんとはしょっちゅう、たまにはY君のお父さん・お母さんと話をするようになった。そのままY君の家で自習をすることもあった。
まだ続く。