前回のテーマと関連したことを書いておく。

なぜ忘れ物をするのか

その生徒が発達障害とかでない、普通の人であるとする。そういう普通の人が、忘れ物をしないようにするための方法を考える前に、なぜ忘れ物をするのかを考えないといけない。うっかりしていたとか、熱とか寝不足でぼ~っとしていたのでなく、無関係に「いつも忘れ物をする」なら、それは習慣になっていることが重要だ。

テレビ番組だったか、雑誌だったか忘れてしまったが、ある男子小学生のお母さんが
「うちの息子は学校から帰って来ると「ただいま~」と元気よく声を出してくれるのはいいけど、いつも靴をぽいぽいと玄関に脱ぎ捨てて、そのままあがってくる。そのたびに『こら! 靴をちゃんと揃えるか、靴箱に入れなさい!』と注意します。すると『あ、ごめん』と言ってから揃えるんですが、どうしても自分から靴を揃えてくれません。このままだとよそ様の家に行った時にやらかしそうです。なんとかならないでしょうか」と言う相談があった。

笑える状況だが、これに対する児童心理の専門家の回答意見がものすごく良かった。
「その子にとって、『帰って来る』⇒『ただいまと言う』⇒『靴を脱ぎ捨てる』⇒『家に上がる』⇒『お母さんに注意を受ける』⇒『靴を揃える』が、習慣になっています。その習慣を消すことがポイントです。これからは、靴を揃えずに家にあがったら、玄関に入って来るところから(つまり靴をもう一回はいて外に出て、となる)「やり直す」ようにしてください。100回ぐらい根気よく繰り返せば、習慣が上書きされて自分から靴を揃えるようになります」とアドバイスしたのである。

1日1回とするなら、100回とは約3か月だ。まさに根気の勝負であるが、そのご家庭はお父さんも協力して、息子の悪習慣撲滅に成功したのだ。張本さんではないが、「あっぱれ」な親子だ。

習慣を助長するから定着する

おわかりのように、今の話を延長すると、忘れ物をすることが習慣になっていて、さらにそれを助長するようなことがあると、さらに悪習慣は因習となって、人を苦しめる。一番怖いのが「忘れ物をする」を習慣にするという「要らぬもの」を身に着けてしまった子供は、次第に周囲から信頼を失くすし、肝心な時に忘れ物をしてやらかしてしまうかもしれない。

靴を揃えない習慣ぐらいは笑えるが、宿題やら文房具、教科書やノートを忘れる悪習慣を身に着けてしまったら、大損だ。これはご家庭でなんとか習慣を上書きしなければならない。

学校や塾などの学習指導側はどうすればいいのだろう。特に学校に期待したいのだが、これは中々難しい。学校は授業を進めなければならないから、一部の生徒が忘れ物を頻繁にしても気にしてられない。毎日見ていれば、忘れ物をする人が誰かわかってくるから、人数分だけ備品を用意しておく。でもこれでは悪習慣の助長になってしまう。

他人に頼っているようではだめだ。やはりご家庭での指導が決め手になる。習慣を上書きするなどに加えて、何か忘れ物をしたらおこづかいを減らすとか、「苦痛を与える」ことも必要になる。人間のダークな面として、苦痛除去のための進歩もある。約束を守らずに、ゲームばかりしている子供の目の前でゲーム機を破壊した親御さんもいた。それぐらい覚悟を見せないといけない時もあることを想定しておくことだ。

塾側は、ある程度の信頼関係が築けた頃合いを見計らって、忘れ物をする生徒のご家庭を連絡を取り合った後、1回警告した時に「今度忘れ物をしたら、取りに帰ってもらいます」と告げ、2回目には本当に取りに帰ってもらう、という「苦痛」を与える。案外よく効くが、本当は取りに帰っている時に事故に遭わないかひやひやしているので、なるべくは、やりたくない手ではある。皆さんも忘れ物は絶対にしないようにしましょう。